研究に仮説は必要か? 仮説検証型研究と仮説探索型研究
研究に仮説は必要か? という ブログ記事 の内容を加筆・修正したページです。
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概要: 研究に仮説は必要か
論文を書く際にしばしば求められる「仮説」というのがどうも気に入らない。
研究には、仮説との関係性から定義された「型」が存在する (2-4)。用語にはブレがあるが、主に以下の 2 種類である。
一つの「仮説」を設定し、それが正しいかどうかをテストするタイプの研究。英語では hypothesis-testing, hypothesis-proving などという言葉が使われる。 「薬剤 A が血圧を下げる」などという仮説が他の研究から導かれ、実験によってそれをテストする、というのが典型的なパターン。 明らかにしたいことが明確であり、仮説を提示した時点で結論も見えているのでわかりやすい。いわゆる「高インパクト誌」に好まれるように思う。 |
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スクリーニング調査、網羅的解析など、不明な点が多い問題をもう少し具体的な問題に落とし込むための研究手法 (4)。 英語では hypothesis-generating research という用語が一般的であるが、data-driven という用語もおそらくこれに該当する。PLoS Biol の author guideline には、data-driven research もウェルカムと書いてある。 |
一般には、まず未知の問題に対しては「仮説生成型」の研究がなされ、それによって蓄積された知見から「仮説」が作られる。それを「仮説検証型」の研究で検証するというステップを繰り返しながら、研究は進展していくはずである。
ところが、
- 仮説生成型の論文を投稿しているのに、「イントロに仮説を明示せよ」などという査読者コメントがつく
- 大学に研究の概要について知らせる書類があり、そこに「仮説」という項目が・・・
そういう輩はアメリカおよび医学分野に多く生息していると思っているが、このへんはもう少し検証してからアップデートしたい。
このページでは、
メモ
一つ間違えやすいのは、仮説検証型研究の目的は仮説を検証することではないこと (4)。目的は「何かを明らかにすること」であり、仮説はそのために立てる「手段」である。
結果を見てから仮説を作り、その仮説が最初にあったという書き方で論文化する行為を HARKing (hypothesizing after the results are known) といい、研究不正の一種とされる。詳細は HARKing のページ へ。
> ニュートンは仮説を設定しなかったという書き物 (1)。
- グラント申請の話。NSF のガイドラインには hypothesis という言葉は一度も現れない。NIH でも一度だけ。なぜ執拗に仮説検証が求められるのか。
- 仮説検証型でない研究を悪く言う言葉に fishing expedition というのがあるらしい。これはそのまま「釣り遠征」で、特段の目的なしに情報を求めに行くことをいう。グラント rejection の理由になるそうだ。
- ダーウィンが航海に出かけたときには、specific hypothesis はなかった。自然選択の仮説は、島を見て回っているうちに生じたもの。現在の基準では、航海の予算は下りないだろう。
- 結論: Hypotheses are all well and good. But in evaluating research proposals, the key criterion should be: Will the proposed work help us answer an important question or reveal an important new question we should have been asking all along?
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References
- Newton didn’t frame hypotheses. Why should we? Link: Last access 2022/01/02.
- 仮説検証型の研究のメリットとデメリット. 僕らの研究スタイル. Link: Last access 2023/06/11.
池田, 平石 2016a. 心理学における再現可能性危機:問題の構造と解決策. 心理学評論 59 3–14.- 仮説生成型と仮説検証型. 科研費.com. Link: Last access 2023/06/11.
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