英語論文 Introduction の書き方:
書くべき内容、論理構成、文例など
- 概要: イントロで書くべきこと
- 第一パラグラフ
- 最初の文
- 最後の文
- 未知の点を特定する文章
- 仮説を提示する文章
- 研究の目的を述べる文章
- The present study was performed...
- 結果の簡潔なまとめを書くべきか
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概要: イントロで書くべきこと
イントロの重要ポイントは以下の通り。
- 何が既知で、何が未知かを過不足なく書くのが Introduction である。総説ではないので、結果を解釈するのに必要のない情報は書かないようにする。
- イメージは逆三角形。大きくかつ確実なトピックから始めて、パラグラフ構造を明確にしつつ話題を絞っていく。最終的に、その論文で取り組む課題に到達する。
- 逆説的であるが、
イントロは結果から作る 。実際には、最初に大まかなアイディア・背景があり、実験や解析をして結果を得る。その場合、「大まかな背景に沿って実験した結果、こうなりました」と書いてはいけない。あたかもその結果を意識していたような、結果に対してベストフォーカスするイントロを書かねばならない 。 - これは結果の書き方でも同様で、もちろん実際に実験をやった順番と、論文で示すデータの順番は一致していなくて良い。
3 番については様々な考え方があるので、ページの下の方にある「仮説」の項も読んでほしい。理想的には、イントロは研究計画と同様で、実際に研究する前に完成しているものである。しかし、たとえば A というイントロを書いて、予想もしない結果 B が出た場合に、そのまま論文にするのはわかりにくいと思う。
このような場合、B の予備情報も含めたイントロを書くケースが多く見られるが、私はこれはアリだと考えている。私の経験上、実際にほとんどの論文はそのように書かれている。
第一パラグラフ
最初の文
Introduction は、本文の内容に関連した strong statement から始める。この文章は強い必要があり、さらに 大 → 小の原則もあるので、
以下のように、いくつか典型的なパターンがある。Introduction 書き出しの文例集 というページで、さらに細かく分析しているので参照のこと。
キーワードを定義することから始める
Reference を伴うこともある。遺伝子の名前、実験の名前などの場合もある。いずれも、論文の中心的なトピックとなる概念・対象についてのシンプルな説明、という形で理解できる。
Working memory is defined as the process by which information is maintained in an activated, on-line state to guide behavior (Baddeley, 1986) (6).- The rat is used extensively by the pharmaceutical, regulatory and academic communities to test drug and chemical toxicities, to evaluate the mechanisms underlying drug effects and to model human diseases (5).
注目を集めている
- Understanding the genetic origins of biological novelties remains
one of the central quests of evolutionary biology (1).
第一パラグラフの最後
科学論文の書き方は基本的にパラグラフ・ライティングなので、次のパラグラフに移るときに話題を変えることになる。原則的には、論文で実際に行った実験、対象とした遺伝子などに一段フォーカスをすることになる。
第一パラグラフの最後をどう締めるかは、次のパラグラフへの渡りをつける上で難しいポイントの一つである。ここでも、いくつか私が認識しているパターンを挙げてみる。
ごく普通に事実で締めるパターン
次の段落の始めに、それを受けて発展させる。
- ... in kittens raised with strabismus, callosal axon terminals are also abnormally wide-spread (Lund et al. 1978). / 次の段落: These experience-induced modifications of callosal connectivity may depend on...
Moy 1989a. Exp Brain Res 78, 203-213.
「〜が重要である」 として、次のパラグラフに繋げるパターン
- Therefore, research regarding lipid metabolism during fasting and re-feeding is of particular importance.
Tian et al. 2013a, Aquaculture 400-401, 29-35.
これまでの研究の問題点を指摘するパターン
Few studies, restricted, neglected, delayed など、問題点を指摘する言葉が使われる。 以下の「未知の点を特定する文章」でも述べる通り、どこでこの文章を挟むかは Introduction の構造上の難しい問題の一つである。
- Nevertheless, only a few studies have investigated the large-scale directed influence brain network based on EC, though not yet at the voxel level.
Wu et al. 2013, PLoS One 8, e73670.
- Although FDG-PET has enormous value in clinical medicine, unfortunately, experimental application of FDG-PET for monitoring glucose metabolism has been restricted to large laboratory animals because of the limited resolution of the PET scanner relative to brain size.
Hosoi et al. 2005, Brain Res 1039, 199-202.
未知の点を特定する文章
Introduction の目的の一つは、既知の点と未知の点を読者に理解してもらうことである。したがって、
未知の点は一つだけとは限らない。比較的早い段階で general な未知の点、後半で specific な未知の点が示される場合もある。たとえば、第一段落の最後で「造血のメカニズムにはまだ未知の点が多い」として、イントロの後半で「とくに、ある遺伝子の働きについてはほとんど報告がない」のようにする場合である。
以下、未知の点を示す文章でよく使われる単語を用法とともにまとめておく。とりあえず名詞とその他に分けたが、状況に応じてさらに細分化していく。
名詞編
単語 | 文例 |
information |
「情報 information」は、もっとも普通に思いつく単語だろう。
|
little |
little を主語にすることで、「少ししか知られていない」述べるパターン。
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concern |
「何かに関心が集まっている」と言いたい場合、concern を使う。
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room |
「余地がある」は there remains room for が基本。further research などがあとに続くが、improvement に続く用例が多い。considerable room とか large room という形容詞もつく。there remains a room は there remains room に比べて極端に少なく、この場合の room は不可算名詞であると思われる。 |
動詞・その他
単語 | 文例 |
whether |
|
remain |
remain のあとに続く単語を押さえておこう。
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lack |
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raise |
過去の知見を挙げて、そこから導かれる疑問や可能性に言及する。
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elusive |
「とらえどことのない」「うまく逃げる」などといった意味。
|
その他 |
例が集まってきたら整理します。
|
仮説を提示する文章
多くの論文では、Introduction のどこかで仮説 hypothesis の提示を行っている。
この仮説は、ほとんどの場合、論文のストーリーを作るためにデータから遡って設定される。つまり、実験をする際に明確に意識されていないことも多い。また、リスト作りなどのように明確な仮説のない研究もあるので、これは Introduction にどうしても必要な要素ではない。
研究・論文と仮説については 研究と仮説のページ やブログ 論文に仮説は必要か? にまとめているので、これらのページも参照のこと。
しかし、
次節の「最後のパラグラフ」に含まれることも多い。
単語 | 文例 |
underlie |
|
wonder |
|
seek, sought |
|
analysis |
分析の結果を hypothesis に含めるパターン。
|
研究の目的を述べる文章
The present study...
この論文で何を行ったかを明確に示す文で、多くの場合は最後のパラグラフに置かれる。パラグラフの頭に来るケースも多々ある。
使われる言葉に応じて、なんとなく分類しつつ箇条書きにする。この文章の時制はちょっとやっかいであるが、おそらく次のように使い分けられている。
- The present study was undertaken to... (Google Scholar 17000 件ヒット、2019 年 12 月。is だと約 1000 件のみ)
- The present study was conducted to... (Google Scholar 17600 件ヒット、2019 年 12 月。is だと約 900 件のみ)
- This study was therefore carried out to...
study が行われたのは過去であるので、こういう文章のときは過去形にするのが基本のようだ。
一方、次のような aim に関わる文章だと、現在形の割合が増える。aim は現在でも保持されていると解釈していいのだろうか。ただし、依然として過去形の使用例の方が多く、ゆえに過去形を使っておく方が安全と思われる。
- The aim of the present study is... (is は 17000 件、was は 28000 件。2019/12)
- The purpose of this study is... (is は 30000 件、was は 69000 件。2019/12)
- The purpose of the present study is to expand the knowledge of...
その他のパターン。これらも過去形。
- We sought to... (sought は seek の過去形。意図を示す強い表現)
- The current study sought to address the underlying biological contributors to... (3)
一方で、
- In this paper, we present...
- In this paper, we provide...
論文を記述するのは現在であるというアイディアだろう。次の項目にある In this review, we... も同じ考え方と思われる。Conclusion で同じような文章が出てくるときは、we have presented... のように完了形になることが多い。
In this review, we...
原著論文でなく総説 review のときには、In this review... として「何に関する総説なのか」をイントロで述べる場合が多い。最後のパラグラフの場合もあるが、原著論文よりも早めに登場する場合が多いように思う。
- This article gives a general overview of current practice in developed countries, looks at future scenarios and charts the main ethical challenges (8). という文章がイントロの 2 番目にきている。
- ... and this review will focus on the use of the CRISPR/Cas9 system against human viruses. がイントロの第一パラグラフの最後にある。
- This review aims to compile this data, and summarize the main findings on bromeliad in the literature to date. コンパイルという単語も使える。
結果の簡潔なまとめを書くべきか
イントロの最後に、論文の内容を簡潔にまとめるパターンもある。
なぜならば、似たような文章が Abstract、Discussion の最後、Conclusion などで繰り返されることになるためである。結果として表現も重複しやすく、論文が冗長になるように思う。
少なくとも一部の Elsevier の雑誌では、以下のように投稿規定でこれを非推奨要素にしている(2)。
State the objectives of the work and provide an adequate background, avoiding a detailed literature survey or
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References
- 生物学・科学に関する雑感. Link.
- Author information pack. Animal Behaviour.
Groman et al. 2014a. In the blink of an eye: relating positive-feedback sensetibity to striatal dopamine D2-like receptors through blink rate. J Neurosci 34, 14443-14454.Baum et al. 1995a. Childhood behavioral precursors of adult symptom dimensions in schizophrenia. Schizophr Res 16, 111-120.Yu et al. 2014a. A rat RNA-seq transcriptomic BodyMap across 11 organs and 4 developmental stages. Nat Commn 5, 3230.Ozonoff & Strayer 2001a. J Autism Dev Disord. 31, 257-263.Guedes et al. 2011a. BMC Genomics 12, S2.De Jong et al. 2014a. Prenatal screening: current practice, new developments, ethical challenges. Bioethics 29, 1-8.White et al. 2015a (Review) . The CRISPR/Cas9 genome editing methodology as a weapon against human viruses. Discov Med 19, 255-262.Jozala et al. 2015a (Review) . Stability, purification, and applications of bromelain: A review. Biotechnol Prog 31, 5-13.
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