英語論文: Materials and Methods の書き方
- 概要: Materials & Methods で書くべきこと
- 実験試薬についての Materials & Methods の書き方
- 分子系統樹を載せる場合の Methods の書き方
統計に関する表現は、以下のページも参考にして下さい。
- 統計の英語表現 (結果の書き方)
- 統計英語の日英対応表
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概要: Materials & Methods で書くべきこと
Materials and Methods は、その論文に用いた材料、実験やデータ解析の方法などについて記載する部分である。「どの程度詳しく書けばいいのか」というのが常に問われる問題であるが、これは
たとえば、試薬を測るのにメスシリンダーを使ったとする。これは、メスフラスコを使っても同じ結果になるだろうし、これらの器具を作っている会社が違っても問題はないだろう。したがって、「どのように 50 mL を測ったか」などという情報は記載する必要はない。
一方、試薬の組成、使ったキット、解析ソフトのバージョン、パラメーターの設定、実験動物の系統、飼育環境などは、再現性に影響する恐れがあるので、正確に記載する。
以上が Materials and Methods の基本的な考え方である。おそらくは論文のなかで一番書きやすいセクションであり、論文の執筆に慣れていない場合は、まずここから書いてみることを推奨する。
実験試薬についての Materials & Methods の書き方
pH の調整
pH の調整は、基本的に動詞 adjust を使う。to や with の使い方も合わせて覚えておこう。
- The pH was adjusted to 8–9 with potassium carbonate, and... (JBC 291, 16418-16423, 2016)
- ... the pH was adjusted to 7.4 by the addition of NaOH 1 M... (ちょっと変わった書き方。BJN 121, 782-702, 2019)
時間と温度の順番
インキュベーションの条件や PCR 条件で温度と時間を書くとき、なんとなく温度が先に来るものと思っていた。しかし Google Scholar でヒット数を見てみたところ "for 1 h at room temperature" は 254,000 件、"at room temperature for 1 h" は 177,000 件。どちらでもよくて、時間が先に来る書き方がやや優勢という結果だった。
これはどうやって調べていけばいいのかよくわからないが、追加情報が入り次第追記する。
試薬・機器の会社を記載する方法
Materials & Methods で実験に使用した試薬などを記載する場合には、会社の所在地として City と Country を書くのが通例である。例えば Takara から購入した BamHI という制限酵素を使ったならば、BamHI (Takara, Shiga, Japan) のように書く。
雑誌によって様々なスタイルがあるので、投稿規定およびその雑誌の新しい論文を参考にして形式を決めるべきである。また、一つの論文中で統一性を持たせることも重要。
以下、初心者が混乱しやすい項目について、私の経験から得られた意見を書いておく。
- 多くの会社はグローバル企業であり、日本支社などがある会社も多い。しかし、論文には原則として
本社 (headquarters, head office) がある場所を書く。 下の一覧表を参照のこと。 - 論文の一部として、通常の文法に従って記載するのが基本的な態度だと考える。つまり、会社名は普通の固有名詞として Takara Bio Inc. などのように最初のみ大文字にする。TaKaRa という表記がキットの箱などにみられるが、私はこれは会社のロゴに近いと考え、Takara のように記載するのが良いと思う。
- バイオラッドも、試薬の箱には BIO-RAD と書いてあるが、論文のマテメソでは Bio-Rad という表記が多い。
- キットの名前も同様で、私は最初だけ大文字というのが適当だと思うが、このあたりは表記の多様性が高い。RNeasy (Qiagen) の N は大文字で書かれることが多いが、SuperscriptIII は SuperScript と Superscript が混在している。
- 文献検索よりも、会社の公式サイトの情報が信頼できる。会社の名前も、公式サイトに正式なものが載っている場合が多い。
論文に記載する会社の所在地一覧
たとえば Google Map でサーモフィッシャーを検索すると、神奈川県横浜市神奈川区守屋町 3 丁目 9 C 棟 2F と出てくる。しかしこれは日本の支社であり、この会社の本部はマサチューセッツ州にある。論文では、本部の住所を記載するのが一般的である。
通常は、(Company, City, Country) という形式。アメリカの場合は、USA を略して州の名前のみを記載する場合もある。日本の場合、市と県のどちらを記載するかが意外と難しい。Takara は大津市にあり、Otsu が良いような気がするが、東京にある会社はだいたい Tokyo と書く。Otsu, Japan よりも Shiga, Japan のがヒット数は多い。
バイオ系の試薬・機器を提供している会社の本部の所在地をまとめた。根拠として、本部の所在地が記されているページへのリンクと、そのリンクが生きていることを確認した年月日を含めた。
昔から書きためてきたメモにも所在地情報があり、それらもとりあえず公式サイト情報なしで表に含める。論文には、その記載例があることを確認しているが、合併などで情報が古くなっている恐れもあるので注意。
会社名 | 記載方法 | 公式サイト 確認年月日 |
Advantech | Advantech, Tokyo, Japan | |
ABI | Applied Biosystems, Foster City, CA, USA | |
Bio-rad | Bio-Rad Laboratories Inc., Hercules, CA, USA | 2019/11/21 |
GE Healthcare | GE Healthcare Bioscience, Piscataway, NJ, USA | |
Invitrogen | Invitrogen, Carlsbad, CA, USA | |
Leica | Leica Camera AG, Wetzlar, Germany | 2018/02/26 |
Millipore | Millipore, Billerica, MA, USA | |
Molecular Probes | Molecular Probes, Eugene, OR, USA | |
Nakalai Tesque | Nakalai Tesque, Kyoto, Japan | |
Nunk | Nunk, Rochester, NY, USA | |
Olympus | Olympus, Tokyo, Japan | |
Promega | Promega, Madison, WI, USA | |
Qiagen | Qiagen, Hilden, Germany | |
Roche | Roche Diagnostics, Mannheim, Germany | |
SAS Institute | SAS Institute, Cary, NC, USA | |
Sigma | Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA | |
Takara | Takara Bio Inc., Shiga, Japan | 2018/02/26 |
Thermofisher | ThermoFisher Scientific, Waltham, MA, USA | 2018/02/26 |
分子系統樹を載せる場合の Methods の書き方
ちょっと専門的すぎるかもしれないが、ベイズ系統樹 を載せる際の必要項目についてまとめておく。
分子系統の専門誌に載っている新しい論文ということで、2017 年以降の Mol Biol Evol または Mol Phylogenet Evol の論文から例を探してみた。
Bayesian inferences were carried out under MrBayes v3.2.1 (Ronquist et al., 2012) on each of the 17 markers and on the nuDNA dataset. The posterior probabilities (PP) were calculated using four independent Markov chains run for 10,000,000 Metropolis-coupled MCMC generations, with tree sampling every 1000 generations and a burn-in of 25%. Hassanin et al. Mol Phylogenet Evol 129, 96-115, 2018. |
Bayesian analyses were also conducted under the GTR + I + C evolutionary model on the CIPRES portal ver. 3.1 (http://www.phylo.org/; last accessed January 2018), using the program MrBayes (Ronquist and Huelsenbeck 2003) on XSEDE ver. 3.2.6 (Miller et al. 2010), with two independent runs each having four chains 5,000,000 generation long. Every 100th tree was sampled and the first 25% of trees were discarded as burn-in. Vdacny, Mol Biol Evol 35, 1757-1769, 2018. |
The Bayesian tree was estimated using MrBayes 3.2 (Ronquist et al. 2012). To create the Bayesian tree, the nucleotide model parameter was set to 4x4, the MCMC chain was run with four chains (three heated and one cold) for 10 million generations, and every 100 samples were taken to estimate the posterior distribution (discounting the first 25% of the samples). Convergence was confirmed by ensuring that the standard deviation of split frequencies was < 0.01 and was further checked visually with Tracer v1.5 (http://beast.bio.ed. ac.uk/Tracer). The 50% majority rule consensus tree was taken as our Bayesian estimate of the phylogeny. Escalona, Mol Biol Evol 34, 2522–2536, 2017. |
これらの例から推察される必須項目は以下の通り。
- 使ったソフトウェアとバージョン (バージョンは忘れがち。→ 査読の注意点)
- Markov chain の数
- MCMC generation の数
- サンプリングのタイミング
- Burn-in のパーセンテージ
さらに、以下の項目に言及している論文もあり、含めたほうが良さそう。
- 使ったモデル
- Markov chain の heat or cold
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