インパクトファクター: 定義、是非、その他の指標など
- 概要: インパクトファクターとは
- インパクトファクターのメリット・デメリット
- その他の指標
- 被引用回数
- h-index
- g-index
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概要: インパクトファクターとは
インパクトファクター (impact factor; IF) とは、以下の式で計算される
ある雑誌の 2018 年のインパクトファクターは、
で表される。つまり、2016 年および 2017 年にある雑誌が 100 報の論文を掲載し、2018 年におけるそれらの論文の総引用回数が 1000 だった場合、IF = 10 となる。
以下のように解釈・説明されることがあり、どれも IF の一面を表している。
- ある雑誌の平均的な論文が、一年間に引用される回数を示したもの。
- 雑誌のランク。一般に被引用回数が多い論文が「インパクトのある論文」とされる。つまり、IF の高い雑誌は「インパクトの高い雑誌」である。
- どの雑誌でも、引用回数を稼ぐのはごく一部の論文である。したがって、IF はある雑誌の論文の平均的インパクトではなく、引用数が多い論文が掲載される確率に近い。
以下の表は、インパクトファクターによる雑誌のクラス分けである。私のひねくれた意見がかなり入っているので、これを常識だとは思わないでほしい。~10 は「およそ 10」の意味。もちろん、厳密な分類ではない。
雑誌のクラス | 代表的な雑誌、コメントなど |
---|---|
IF > 30 | Nature が最高峰と考えている人もいるかもしれないが、IF の点では上がある。一般に医学系の論文は 引用文献 が多いので、NEJM などの医学系雑誌や、引用されやすい総説を多く載せた雑誌は IF が高い。
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IF ~ 30 | Cell, Nature, Science (CNS) のいわゆる「御三家」がこのクラスである。広い話題を扱う Nature, Science に、専門誌の Cell を加えてこの言葉を作ってしまったことに、生物系の研究者として非常に恥ずかしい思いがある。 医学・生物学系はとくに IF への執着が強いと言われている。数学では、発表した理論が数十年もかけて評価されることがあるようだ。こういう評価システムの面から見ても、生物は学問分野としてまだまだ未熟だと思う。
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IF ~ 20 | かつては PNAS などが CNS の次のランクという印象だったが、Nature 姉妹紙などに取って代わられた。 医学系の専門誌もいくつか。
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IF ~ 10 | PNAS, Curr Biol, PLoS Biol, eLife, Nat Commun などの広い話題を扱う「いい雑誌」の多くがこのクラス。こういう雑誌は、広範な読者の "broad interest" を惹く論文でないと判断されると editor reject をくらう。つまりこの borad interest は事実上 "editor's interest" である。 また、医学系で基礎よりの雑誌もある。Neuron とか。
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~5 < IF < ~10 | 渋い専門誌のトップクラスという印象。
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IF < ~3 | IF = 5 の雑誌と IF = 1 の雑誌は、論文の内容がさすがに違う気がするけど、IF = 0.5 から 3 あたりは玉石混交という印象。 学生が主著者で、一研究室レベルで行われた研究も多いので、博士号取得のために IF の低い雑誌に投げ込んだりということが頻繁にあるはず。 |
インパクトファクターのメリット・デメリット
論文の価値はあくまで論文自体で評価されるべきもので、間違っても雑誌のインパクトファクターで評価すべきではない。これは大昔から言われてきた正論であったが、「そうは言っても・・・」のが正直な研究者の意見であったように思う。
ところが、最近になってようやくこの正論が現実味を帯びてきた。PLoS ONE の成功は、これが金稼ぎのために創刊された雑誌であろうとなかろうと、間違いなくこの方向づけに大きな役割を果たすものであった。また、STAP 細胞の顛末も Nature など一流紙への掲載がどれだけ政治的に決まるものであるかを実感する良い機会であった。
「雑誌名 = 論文の価値」というシステムは、数名の編集者・査読者が論文の価値を決めてしまうことを意味する。この査読システムは、通信手段がないために、極めて少人数しか論文の内容についての意見を共有することができなかった時代に、査読者の権威をもって論文の質をある程度保証するための仕組みであり、極端なことを言えばネットがない時代の遺物である。
オープンアクセス化、事後評価の流れはもはや止まらないと考えている。現在の問題点は、PLoS ONE のサイトをみてもコメントがあまりついていないように、事後評価のシステムが確立していないことだろう。今後の方策に対する考えも徐々に書いていくつもりであるが、まずは既に公開されている以下の宮川剛先生の提案 (5) には全面的に賛意を表したいと思う。
- 公的研究費による論文のオープンアクセスの義務化を!
- 公費による紙媒体の科学雑誌の購読の制限を!
- 出版後評価の積極的仕組みを!
- 日本発の論文をアピールする仕組みを!
- 報道時に論文URLの表示の義務化を!
> IF が被引用数を予測するために使えるかを検討した論文 (8)。
- コイン投げと同程度、つまり 0.5 ぐらいの確率でしか IF から被引用数を予想できなかったという結論。
その他の指標
被引用回数
「雑誌の価値 = 論文の価値」という観点からは一歩進んだ指標だが、研究者が多い分野ほど高くなる、好意的な引用とは限らない、などの問題点も。
詳細は 被引用数のページ を参照のこと。自己引用、s-index とともにまとめた。
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References
- 「インパクトファクター至上主義の弊害」の根は深い. Link: Last access 6/25/2017.
- ある生物系研究室での日常. インパクトファクターで評価することについて. Link: Last access 2018/07/05.
- あなたはインパクトファクターで選ぶのか? わがまま科学者. Link: Last access 2018/07/05.
- Impact factors are still widely used in academic evaluations. Link: Nature News.
- Rethinking impact factors: better ways to judge a journal. Link: Nature Comment.
van Noorden R, Chawla DS. Policing self-citations. Nature, 572, 578-579, 2019.- インパクトファクターは科学者の業績を[必ずしも]測らない. Life is Beautiful. Link: Last access 2019/12/01.
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