Predatory (ハゲタカ) journal: 定義、リスト、考察など

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このページの最終更新日: 2023/02/14

  1. 概要: Predatory journal とは
  2. 私の意見
  3. その他未整理

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概要: Predatory journal とは

以下のような特徴をもつ科学雑誌を、一般に predatory journal と評する。日本語では「捕食出版」と呼ばれる。研究者を捕食するイメージである。

  • 査読 が甘い。
  • 掲載料が高い。多くの場合オープンアクセスである。(なお、研究結果を論文として出版する場合、研究者は原稿料をもらうのではなく、なぜか掲載料を出版社に払わなければならない。このおかしなシステムがそもそもの問題とも言える)

アメリカ・コロラド大学デンバー校の准教授かつ司書であったジェフリー・ビール Jeffrey Beall が 2008 - 2015 年あたりにかけて作成・公開した Beall's list が、predatory journal という概念を確立させる大きな契機となった。

ビールのリストは、さまざまな苦情を受けて 2017 年に閉鎖された。しかし、その後もさまざまなリストが作られている (1)。GitHub にある List of Predatory Publishers が、Beall's list 亡き後で有名なようである。


MDPI は predatory jounal か?

何かと話題にのぼる MDPI についてまとめておこう。MDPI は、当初 Beall's list に含まれていたが、MDPI 自身の訴えによって 2015 年に除外されている。

現在では多くの MDPI 雑誌に インパクトファクター (IF) がついており、これは少なくともその発行元からはまともな雑誌として認められていることを意味する。その IF も、4 から 6 ぐらいの雑誌も結構あり、意外と高い。多くの有名な研究者も MDPI から論文を出版しており、現在では predatory として分類するのは合理的でない。

一方で、MDPI の手法には疑問の声も多い。まず査読であるが、自分の経験から言っても審査は厳しくない。基本的に、editor 判断で掲載するという傾向が強い雑誌に思える。「査読者として reject を繰り返し推奨したのに、なぜか掲載された」というネットの声も多い。生命の起源に関するおかしな論文を発表したという前科もあるようである。

総合的に判断して、私は MDPI にはポジティブ である。

MDPI が何よりも素晴らしいのは、査読をすると voucher がもらえ、それを掲載料に当てることができる というシステムをとっており、これは大変素晴らしい。他の出版社も見習うべき。

Publication fee (APC = article processing charge) も明瞭に示されているし、以下のスクリーンショットに "All valid and associated vouchers can be applied to one invoice." とあるように、vouchers は一つの請求書に対してまとめて使うことができる。

MDPI 出版費用のポリシー

また、ジャーナルのサイトがとてもわかりやすく作られているのもポイントが高い。コレスポ投稿論文、共著論文、査読などを一つのアカウントで全ての MDPI 雑誌について見ることができる。審査の甘さも、PLoS ONE に近い編集方針 をとっているのだろうと解釈すれば問題ない。新しい時代のジャーナルとして、どのように発展していくか楽しみである。

私の意見

毎日のようにメールが来るのはうっとおしいし、いわゆる predatory journal は好きではない。しかし、predatory journal を叩く論説に、現在の科学出版のあり方が理想的であると信じているような雰囲気を感じてしまい、どうも素直に読むことができない。

私の感じている問題点を簡単に整理すると、以下の 3 点である。

  1. 時代は post publication peer-review に向かっている。つまり査読は最低限としてとりあえず publish し、評価はあとから自然と定まってくるという発想。bioRxiv などが先駆者。厳しい査読を経ているなら価値があり、査読が甘い (または査読されていない) ものには価値がないという二元論は、この流れに逆行する。査読の価値を過大評価しているように思う。
  2. たとえば Nature Communications の掲載料は 2023 年 1 月時点で $6,290 であり、十分に法外である。「審査はちゃんとしているし、それだけの価値がある雑誌である」という主張はある意味で正しいが、査読者が無料奉仕をしているという点では、たいていの雑誌が暴利を貪っていると言える。この大きな問題を見ないふりして、とりあえずわかりやすい悪である predatory journal を叩くという構図が気に入らない。
  3. Post publication peer-review の話とも関係するが、雑誌名で論文の質を判断してはいけないというのは、科学のかなり根本的な問題点である。いわゆる「一流誌」も、数名の editor が論文の significance を判断するという点において理想的ではなく、捏造やゴリ押しなどの問題があるのは広く知られているところ。ところが、predatory journal に関する議論では、とりあえず predatory journal を叩くために、この問題のあるロジック (雑誌の質 = 論文の質) が平気で使われる。これも気に入らない。「欠陥論文」は論文に欠陥があるから欠陥論文なのであって、predatory journal に掲載されたから欠陥論文なわけではない。

簡単に言えば、最近の predatory journal の袋叩き具合がどうも 権威主義的 に見えるということ。ニセ科学批判をする人の多くは単なる権威主義者だったことが原発事故で明らかになったように、私は predatory journal よりも、「こいつらは袋叩きにしていい」という雰囲気の方が、よっぽど見苦しく科学に害をなすのではないかと感じている。

その他未整理

Predatory journal で出版された論文が引用されることはまれなので、科学に大きなインパクトを与えていないという論文 (4)。Nature news に掲載された。

粗悪学術誌の論文

毎日新聞からの引用 (3)。普通の論文だって再現性が問題になっている状況を考えると (2)、この書き方はちょっと問題があるように思う。


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References

  1. List of predatory journals. Link: Last access 2019/04/29.
  2. Bishop 2019. Rein in the four horsemen of irreproducibility. Nature 568, 435.
  3. URL: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190429-00000036-mai-sctch. Last access 2019/04/30.
  4. Björk, B.-C., Kanto-Karvonen, S. & Harviainen, J. T. Preprint at https://arxiv.org/abs/1912.10228 (2019).

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